Work & Business
2009年11月20日号
仕事に命をかけて Vol.21

陸上自衛隊東部方面衛生隊
第102野外病院隊手術班長・1等陸尉
依田 由紀子

 文字通り、仕事に自分の命を賭けることもある人たちがいる。一般の人にはなかなか知られることのない彼らの仕事内容や日々の研鑽・努力にスポットを当て、仕事への情熱を探るシリーズ。

 今回は、練馬区大泉学園町にある陸上自衛隊朝霞駐屯地の東部方面衛生隊に勤務する、依田由紀子1等陸尉。東部方面隊隷下部隊の衛生業務ほか、新型インフルエンザやスマトラ島沖地震の発生に際しては、検疫や被災者の治療を行うなど、多くのシーンで活躍する看護官をご紹介したい。

(取材/袴田 宜伸)

野外病院を設営して患者の診療・処置を行う

スマトラ島沖地震の発生に際しては、現地に出動して多くの被災者を治療

スマトラ島沖地震の発生に際しては、現地に出動して多くの被災者を治療

 関東甲信越および静岡県(1都10県)の防衛警備や災害派遣などを主任務とする東部方面隊は、1個の師団・旅団・施設団のほか、34個の駐屯地、3個の分屯地、11個の地方協力本部を配置。

 隷下には東部方面衛生隊や航空隊、音楽隊などがあるが、東部方面衛生隊は、それら東部方面隊隷下にある部隊の衛生業務を任務とし、そのほか災害派遣や民生協力、国際貢献活動も行っている。

 隊員の多くは、医師、看護師、救命士、放射線技師などの有資格者で、部隊は、本部および本部付隊と第102野外病院隊、第302救急車隊で編成。

空中移送をともなう訓練の様子

空中移送をともなう訓練の様子

 救急車隊は、患者に対して救命措置を施し、野外病院隊に搬送することを主な任務とし、本部および手術班、収容班、受入診療班で編成される野外病院隊は、テントなどを使って野外に病院を設営。そこに患者を収容して診療し、外科手術など、患者の容態に応じて適切な処置を行う。

 また、平時の職務としては、訓練が主体。

 ほぼ毎月1回、富士山や相馬原(群馬県)などに出向き、野外病院を設置。さまざまな要請に即応できるように、およそ1週間かけて患者の受け入れから処置するまでの一連の流れを訓練している。

 

今しか学べないことをできるだけ多く学びたい

 看護師になりたいとの思いを抱いていた依田1尉は、自衛官の兄から「看護師たる陸上自衛官」の存在を聞き、その養成機関である高等看護学院に入学。3年間、自衛官になるための基礎教育を受けながら、看護の専門知識を学んだ。

 「看護の勉強をする以外に、ベルトを使った患者さんの運搬方法を学んだり、職技訓練を受けたりしました。どれも普通には経験できないことですから、つらいとは思わず、むしろ楽しかったです」

 卒業後は自衛隊中央病院に勤務。約15年間、看護業務に勤しみ、東部方面衛生隊には昨年4月に配属された。

 部隊配属は、これが初めてのこと。そのため看護のエキスパートであっても自衛官として学ぶことは多く、それが大変な部分でもあるが、依田1尉は聞くこと・成すことのすべてが真新しいことにやりがいを感じている。

 「医官や看護官の部隊配属期間は、通例で2年。ですから来年3月には一度、部隊を離れます。今しか学べないこと、学ばなければいけないことは、まだまだたくさんありますので、残りの期間でできるだけ多くのことを学びたいです」

 

新型インフルエンザの流入を防ぐために成田へ

成田空港での新型インフルエンザの防疫

 今年の4月30日からは、新型インフルエンザが世界的に流行し始めたことを受け、依田1尉は国内への流入を防ぐために約2週間、成田空港に派遣され、帰国者・入国者に対する検疫などを行った。

 「サーモグラフィで体温を確認したり、アンケート用紙の回収を行ったりしましたが、水際で食い止められるのは自分たちしかいませんでしたから、国防の意識が強く、緊張感も高かったです」

成田空港での防疫

新型インフルエンザの国内流入を食い止めるために行われた、成田空港での防疫。サーモグラフィで帰国者・入国者の体温をチェックして、アンケート用紙を回収

 さらに10月3日からは、インドネシアのスマトラ島沖地震の発生にともない、国際緊急援助隊・先遣調査チームの一員として現地に出動。同月20日に帰国するまでの間、被災者に対してケガの消毒や抜糸などをして、国際貢献を果たした。

 「現地の多くの方が、涙を流しながらとても感謝してくれて嬉しかったです。自衛隊の看護官でなければ経験できないことですから、今の道を選んでよかったなと思いました」

 病院にいては、得られないさまざまな知識と経験?そのすべてが、依田1尉の大きな財産となっている。

 「病院に戻ってからも部隊で得た知識・経験を活かして、患者さんに対してよりいいケアやサポートができる看護官になりたいと思っています」

 依田1尉は今日も努力を続け、さらなる高みを目指す。

 

[プロフィール参照]

<プロフィール>

1969年、広島県生まれ。高校卒業後、陸上自衛隊高等看護学院に入学。卒業後、自衛隊中央病院に約15年間勤務する。2008年4月に現在の東部方面衛生隊に配属。第102野外病院隊手術班長として活躍している。