
国際会議での随行通訳ほかさまざまな場面で活躍
東京消防庁麻布消防署 主任主事・英語通訳 小椋健司
文字通り、仕事に自分の命を賭けることもある人たちがいる。一般の人にはなかなか知られることのない彼らの仕事内容や日々の研鑽・努力にスポットを当て、仕事への情熱を探るシリーズ。
今回は、港区元麻布にある東京消防庁麻布消防署に勤務する、小椋健司主事。国際会議での随行通訳や英語のナレーションなどを行うほか、チラシやパンフレットの翻訳・検訳なども一手に引き受ける、英語のエキスパートをご紹介したい。
(取材/袴田 宜伸)
国際会議での随行通訳ほかさまざまな場面で活躍

国際会議での通訳。現地では通訳である以外に、秘書やカメラマンなどの仕事もこなすため、多忙をきわめる(写真提供/東京消防庁)
小椋主任は大学卒業後、英語教員として高校の教壇に立つなどしてきたが、「人の役に立てる職場で英語の実務に就きたい」との思いから1988年、英語通訳主事として東京消防庁に入庁した。
英語には精通していたものの、消防の知識は少ない。
また、一般的な通訳とは違って専門性が高いだけに、日常生活では使わない消防の専門用語に触れる機会も多くある。
そのため、入庁後の約1カ月間は、消防学校や装備工場に足を運ぶなどして消防全般の教育を受けたり、消防用語辞典や海外の消防雑誌を読んだりして、実務に必要な知識を取り入れた。
「日本語にしても英語にしても、耳慣れない言葉が多かったので、想像していた以上に大変でした」

一口に通訳といっても職務内容は多岐にわたり、消防総監がIFCAA(アジア消防長協会)の国際会議に、その会長として出席する際にも、通訳として随行する。
「国際会議では、特に意見などを正確に伝えなければなりません。ですから、細心の注意を払って通訳をしています。頼れるのは自分だけなので、緊張することも多いです。でも“無の境地”で臨み、緊張を表に出さないようにしています」
また、毎年1月6日に行われる「東京消防出初式」では、英語の実況中継を担当。
さらには、英語の広報ビデオでナレーターを務めたり、外資系企業やインターナショナル・スクールで応急救護やライフセーフティの講義を行ったりするほか、火災の関係者に外国人がいる場合には、現場検証に立ち会って通訳することもあるという。
「一通訳ではなく、東京消防庁の看板を背負っていることを常に自覚し、どんな場面でも丁寧に接するよう心がけています」
英語的な発想で文章を作成することを意識

東京消防庁のパンフレット。こうした文章のチェック・翻訳も英語通訳主事の仕事(写真提供/東京消防庁)
東京消防庁の英語通訳主事は、現在2名のみだが、通訳ばかりが仕事ではない。各種のチラシやパンフレットの英語版を作成。外国人居住者に向けて防火・防災を呼びかけるなど、広報活動の推進に一役買っている。
「単語のチョイスや文章の組み立てなどを入念に検討して、できるだけ英語的な発想で文章を作成すること、幼稚な表現や難しい単語を避けることを意識しています」
海外の消防専門雑誌への寄稿記事を翻訳したこともあり、昨年6月に東京でIFCAAの会議が開かれた際には、パンフレットに載せる石原都知事の挨拶文なども翻訳した。
「間違いがあってはいけないので苦労しましたが、とても充実していましたし、自分が翻訳した文章がパンフレットや雑誌などに掲載されたのを見ると嬉しく思います」
このほか職員や翻訳業者が翻訳したものを細かくチェックし、修正する「検訳」も大事な職務の一つで、日々の業務では大きなウエイトを占めるという。
より質の高い、自然な英語で通訳することを目指して
消防の資器材は日進月歩。続々と新製品が開発され、英語もまた時代の流れに合わせて常に変化している。
それだけに小椋主任は、そうした知識を常に仕入れ、研鑽を続けているが、それも全ては「より質の高い、自然な英語で通訳・翻訳できるようになるため」のもの。
そして将来的には、「英語を学びたい」という若手職員が増えていることを受けて、消防会話辞典を作りたいと考えている。

麻布消防署の外観(写真提供:東京消防庁)
「いわゆる受験英語ではなく、アメリカの消防職員が日常的に使っている表現を収録・解説したもので、外国人にとっても役立つものを作れればと思っています」
入庁時に抱いた「人の役に立ちたい」との思いは、今も変わらず持ち続けている。
「外国人を含め、自分の仕事が人の役に立っていることを実感できた時に、大きなやりがいを感じます」
そう言って笑顔を見せた小椋主任。今後も多くの場面で活躍されることを期待したい。
![[プロフィール参照]](/images/20091020/ogurasan.jpg)
<プロフィール>
1960年、東京都生まれ。早稲田大学卒業後、高校教諭などを経て、1988年に英語通訳主事として入庁。外務係(現国際業務係)に勤務した後、2005年に麻布消防署に異動。そのほか、本庁の国際業務係とアジア消防長協会の仕事も兼務している。