仕事に命をかけて
2009年5月20日号

仕事に命をかけて Vol.15

陸上自衛隊東部方面ヘリコプター隊 第1飛行隊・2等陸尉
半浴(はんさこ)仁美

 文字通り、仕事に自分の命を賭けることもある人たちがいる。一般の人にはなかなか知られることのない彼らの仕事内容や日々の研鑽・努力にスポットを当て、仕事への情熱を探るシリーズ。

 今回は、立川市緑町にある陸上自衛隊立川駐屯地の東部方面ヘリコプター隊に勤務する、半浴仁美2等陸尉。部隊や物資の航空輸送をはじめ、災害時には空から災害情報の収集・連絡などを行う、ヘリコプター・パイロットの活躍をご紹介したい。

(取材/袴田 宜伸)

災害情報の収集・連絡も部隊活動の一つ

半浴2尉が操縦するUH-1。多用途なヘリコプターとして知られ、乗員は最大で11名

半浴2尉が操縦するUH-1。多用途なヘリコプターとして知られ、乗員は最大で11名

 東京のほぼ中央に位置する立川駐屯地の歴史は、1922年に飛行場としてスタート。以後、アメリカ軍の進駐などを経て、航空隊の移駐が完了した1973年から陸上自衛隊の駐屯地となった

 現在では、ヘリコプターを保有する東部方面航空隊をはじめとして、9個の部隊が駐屯地に所在している。

 任務としては、人員や物資を航空輸送するほか、関東・甲信越地方で地震や山火事などの災害が発生した際には、現地に出動。

 救援活動に従事する一方で、東部方面総監部や内閣府、総理大臣官邸などに上空からの映像をヘリ映伝機を通じてリアルタイムで配信する、災害情報の収集・連絡も部隊活動の一つとなっている。

 また、立川駐屯地は、各種防災機関の施設が集まった「立川広域防災基地」の施設の一つ。そのため、駐屯地内にある1200mの滑走路を有する立川飛行場は、東京消防庁や警視庁などの航空機が防災活動を行う際にも利用されている。

自分にかせられた責任の重さは常に意識

UH-1のコックピット内

 ヘリコプター・パイロットとしてUH?1を操縦する半浴2尉は、ほぼ毎日空を飛んでいる。

 任務として平時では、上級部隊やVIP、物資などを航空輸送し、有事では、地上からは行けない場所にヘリコプターから前戦部隊を降ろす「ヘリボン」のほか、現地に急行して空から部隊を指揮したり、災害情報を収集・連絡したりする。

 冬場には、山火事の消火活動にあたることも多いが、そうしたさまざまなシーンで活躍するためにも訓練は、ほぼ毎日行う。

年始恒例の編隊飛行訓練の様子

年始恒例の編隊飛行訓練の様子

 空中でエンジンが止まった時の対処や、ヘリボンをはじめとする実戦を想定した緊急操作・戦技飛行のほか、部隊や個人の練度を向上させるために地上でも訓練を行うが、任務でも訓練でも空を飛ぶ時には「航空安全を確保しつつ、任務を完結させる」ことが最優先。操縦桿を握る時には常にこれを念頭に置くが、それが時にプレッシャーにもなる。

 「一つ間違えれば自分だけでなく、同乗者の命を奪うことにもなりかねません。自分にかせられた責任の重さは、常に感じています」

 半浴2尉は続ける。

 「管制・気象・通信・整備と、いろいろな人たちが助けてくれているからこそ、安心してフライトができます。ですから感謝しつつ、『この人のためなら』と思ってもらえるパイロットにならなければと思っています。そうなってこそ、私が預かった搭乗者や仲間の安全を守れると思いますから」

無事に帰って来た時には毎回充実感が得られる

フライト前には必ず各種の点検を行う

フライト前には必ず各種の点検を行う

 ヘリコプター・パイロットになって早9年。現在は機長の身にあるが、「技術は一生」と話すように、学ぶこと、身につけることはまだまだ多い。

 「いくら判断がよくても技量がなければ処置できませんから、『これで終わり』ということはありません」

 きわめようとする道のりは厳しい。肩にのしかかる責任も重い。

 しかし厳しい任務にトライして達成するからこそ、大きな充実感が得られる。

 「災害派遣の際に現地の方に感謝されると嬉しく思いますが、無事にフライトを終えられた時には、毎回充実感があります。この世界で仕事ができることは、とても幸せです」

 話の終わりに半浴2尉は、今後の目標をこう口にした。

 「これからも技術・知識・判断・人としての資質を高めていき、仲間に信頼され、いざという時には国民・国家の役に立てる?そんなパイロットになりたいと思っています」

 高校1年生の時に、目標がないままただ漠然と進学することに疑問をもち、「高い目標に向かって頑張っていきたい」「規律に厳しい世界だからこそ立派な大人になれる」と考えて今の道に進んだ。

 航空学校での初フライト時には、眼前に広がる空の広さに胸が躍った。卒業した時には、夢が叶ったと感慨深いものがあった。

 だが、そこからが本当の夢のはじまり。

 これからも半浴2尉は、操縦桿を握って空を駆り、果てなく続く夢に向かって邁進していく。


[プロフィール参照]

 

<プロフィール>

1975年、山梨県生まれ。高校卒業後に入隊し、市ヶ谷駐屯地の通信課に勤務後、航空学校に入校。2000年にヘリコプター・パイロットになる。約7年間東北方面ヘリコプター隊に所属。立川駐屯地には2007年4月より配属