
局長に聞く 52
卸売市場の役目を痛感
中央卸売市場長 塚本直之 氏

東京都の各局が行っている事業について、局長自らが紹介する「局長に聞く」。52回目の今回は中央卸売市場長の塚本直之氏。都政の課題となっていた築地市場の豊洲移転が動き出す中、これからの整備の予定、今後の卸売市場のあり方などについてお話をうかがった。
(聞き手/平田 邦彦)
豊洲新市場移転は粛々と
?築地市場の豊洲移転計画の進捗状況はいかがでしょう。
昨年11月、都と築地市場業界との協議の場で、豊洲新市場の施設計画をお示しし、出席者の皆さんから合意をいただきました。計画では平成26年度中の開場を目指していましたが、施設の竣工を1年延伸することを今年1月に発表しました。
建設予定地の土壌汚染対策工事は今年度中に終わる予定でしたが、工事に伴い行った調査の結果、処理する土の量が増加する見込みとなったこと、地下に埋設物が当初の見込みよりも多く残っていることなどを受け、対応策をしっかり講じる必要があることから延期を決定しました。
施設建設工事には来年度着手する予定です。新市場の機能ですが、ハードとしては、品質・温度管理を徹底するために閉鎖型の施設整備を行います。駐車場もこれまでより広くなりますし、築地市場は物流が錯綜していますが、新市場では施設を効率的に配置し、動線が非常にスムーズになります。
?移転に向けた計画は粛々と進められているということですね。
そうです。さらにこれまで市場移転に反対のスタンスだった東京魚市場卸協同組合も、都との協議に応じる姿勢を見せています。
そして2月7日に発足した新しい執行部は、移転について準備を進めるという姿勢を示してくれていますので、今後、より具体的な話を進める必要があると思っています。ハード面については、これまでも協議してきましたが、ソフト面についてもしっかりと協議する必要があります。
?併せて整備する千客万来施設はどのような施設ですか。
築地は卸売市場だけでなく、場外市場も併せて東京の観光スポットという一面も持ち合わせており、特に外国人観光客には人気が高いです。観光スポットとしての賑わいが、豊洲に移っても維持できるようにしないといけないと感じています。
そのため、豊洲の新市場の一角には千客万来施設を新たに整備します。築地の場外市場のような機能を有することとしています。現在の場外市場は、買出人に食材や調理器具、食器、さらには食事を提供しています。
つまり、あそこに行けば食に関するものが一式揃うという機能があるわけで、豊洲でも同様のサービスが求められますね。積極的に海外からの観光客を迎え入れることも考えなくてはと思います。
このほかにも解決すべき課題は山のようにあります。開場が1年延期となりましたが、その間にやるべきことは非常に多いですね。厳しいなというのが正直な気持ちです。
市場の低温化対応を推進
?食品の安全・安心について中央卸売市場はどのような取り組みを行っていますか。
放射性物質については、出荷時の検査が行われていますし、残留農薬等については、市場内の衛生検査所でもチェックされています。基準を超えるものが見つかれば、卸売業者や仲卸業者の安全・品質管理者に情報が伝わります。店舗に出る前であれば出荷を止め、店舗に出荷されていても回収する体制が出来上がっています。
被災産地の農水産物はいまだ販売が振るわず、価格が回復しないなど、風評被害が続いていますが、産地では一生懸命努力して検査を行っています。福島産の米は全袋検査ですし、野菜も畑ごとに、出荷前に全品目検査がなされています。ですから出荷されるものは検査をパスした安全なものです。
?卸売市場は都内に11市場あります。リニューアルの計画などはあるのですか。
食肉市場、大田市場、築地市場は、都内だけでなく首都圏全体の基幹的な役割も担っています。計画的な整備を行い、その機能を十分に発揮することが求められています。
それ以外の市場は地元密着型ですが、施設の老朽化対策を中心に、着実に施設整備を実施しています。淀橋市場では昨年末、仲卸棟をリニューアルしました。これによって、一層の低温化への対応も可能となりました。北足立市場でも低温化に備えて、電源の強化などに取り組んでいます。
こうした背景には野菜などの低温流通が進んでいることがあげられます。低温化がされていないと、量販店に対応できません。
生鮮食品のレタスなどの葉物は、産地や量販店では低温管理が出来ているのに、市場では今までそれが必ずしも十分ではなかったわけです。市場が低温化されないと扱わせてもらえないですから、市場の低温化の取り組みに力を入れています。
?今後の市場のあり方についてお考えがあればお聞かせください。
消費者の皆さんからすると、野菜をはじめとする食品が市場を通っているかどうかはあまり関心がないと思います。日本では一年中、きゅうりやトマト、茄子などの野菜が流通していますが、それは何故かというと、産地が1年を通じて代わっているからです。
全国から野菜が集まってくるから、季節が途切れることなく供給されているのです。それは卸売市場を中心とした物流があるからということを、消費者の皆様にはご理解いただきたいと思います。全国から食品を集めて、一番良いものを消費者の皆さんに提供するのが卸売市場の役目だということを痛感しています。
?ところで市場長の趣味は野菜づくりと聞いています。
10年以上にわたって家庭菜園をやっています。年間で20種類の野菜を作っています。
自分の作った野菜と市場に出ている野菜を見比べてみると、「素人の自分でもよく育てられたから豊作だ」とわかります。昨年暮れからの厳しい寒さで、野菜が育たずに値段が上がっていますが、私の野菜も全然育ちません。趣味と仕事が一致していますね(笑)。