
NIPPON★世界一 (47)

●株式会社アクア ●港区東新橋
●1998年設立 ●従業員30名
建築総合カルテ・建築収益(NOI)改善提案
株式会社アクア
日本にある世界トップクラスの技術・技能?。それを生み出すまでには、果たしてどんな苦心があったのだろうか。
建築物のPM、CMを担う独立系企業のアクアが、日本で初めての評価・診断会社を生み出した。東日本大震災により、建築物の安全性が注目される昨今、この新事業は業界の新たなスタンダードになる可能性が高い。
(取材/種藤 潤)
例えば“建物の総合病院”のように、新築、既存を問わず建物を適格に評価・診断する会社があってもいいのではないか?。そんなありそうでなかった、建築物の安全性、信頼性を客観的に評価する事業に、アクアはあえて乗り出した。
「資産の信頼性を高めること、投資リスクを軽減すること。人の安全・安心を技術をもって評価する会社は、今までありませんでした。技術を世の中のために役立てる会社づくりを目指します」

取材に応じてくれた山原社長(中央)とプロジェクト統括本部の佐藤次郎さん(左)、川崎真一さん(右)。
代表取締役社長の山原浩さんは、笑顔を見せながらも、眼差しは真剣そのものだ。
中立的に建築物を評価することは、施工側、設計側にとって、場合によってはデメリットとなりうる。そうした関係業者とのつながりのなかで仕事を請け負うのは、建築業界では同社も同じ。煙たがられる存在になる可能性も大いにある。それでも、あえてこの新事業に乗り出したのには、所有者の立場に立った建設ビジネスをしたいという、熱い思いがあったからだ。
建物の総合診断と収益改善の提案

『建築総合カルテ』『建築収益(NOI)改善提案』を横から撮影。この分厚い冊子のなかに、膨大かつ緻密な調査項目が記されている
新事業は大きく2つに分けられる。ひとつは、建物(資産)の総合診断を提案する『建物総合カルテ』。厚さ3センチ以上にも及ぶオリジナルのカルテ(右写真)を元に、建物調査、地震リスク診断、耐震診断などを行い、中長期修繕計画や耐震補強計画、管理コスト改善、エネルギーコスト改善、省エネ・CO2削減などの提案をしていく。
「建物を中立かつ客観的に調査することで、資産価値を正確に把握するのはもちろん、投資家への説明責任、コンプライアンスにつながる投資の妥当性など、建物所有者のメリットにつながります」
もうひとつは、『建物収益(NOI)改善提案』。前出の『建物総合カルテ』ほどの厚さはないものの、緻密にまとめられた冊子を元に、建物の運用状況を把握し、管理コスト、エネルギーコストの改善提案を行っていく。また、固定資産税の最適化の検証も行う。
「コストを見直すことで、年間1000万円単位のコストカットにつながる事例もありました。そうなれば収益性は大きく改善し、耐震強化やLED照明への変更など、資産価値向上に向けた投資を行うことが可能になります」
独立系PM、CM企業として培った知識と経験を活かす
しかしこの新事業、いざ実行するとなると、建設業務に関する幅広いビジネススキルが求められる。それを可能にしたのは、同社が建設ナレッジ・マネジメントのプロフェッショナルとして歩んできた実績である。
アクアは1998年、新築を中心とした建築物のPM(プロジェクト・マネジメント)、CM(コンストラクション・マネジメント)業務の受注委託を行う企業として創業。大手デベロッパーなど数々の企業の事業を受注、業界内に着実にその存在を示してきた。
「建設プロジェクトが動き出す際、建物所有者の立場に有利な状況を作り上げるためにさまざまな駆け引きがなされ、結果、コスト、品質、設計、工事など、建築物の本質的な部分が置き去りにされるケースが多くありました。それを中立的な立場からマネジメントし、事業利益の最大化、事業リスクの最小化にするお手伝いをしてきました」
アクアが建築設計のブランドになるために

もう1人のプロジェクト統括本部の細川裕嗣さん
山原さん、そして今回取材に応じてくれた2名は、創業以前はそれぞれ異なる建築業務に従事し、建築のスペシャリストとして活躍していた。そうした業界での体験を通して感じた課題、そしてそれを解決したいという熱い思いが、15年前の起業、そして今回の新事業着手に至らせたという。
「所有者側が建築に関する専門的知識もなく、不利な状況で建設プロジェクトが動く状況に問題を感じていました。それに加え、バブル崩壊後に銀行が建物の評価基準を持っておらず、建築物が適切に評価されずに投資などの対象になっていた。中立かつ客観的な建物の評価基準が必要だと、痛烈に感じていましたね」
東日本大震災以降、建物の安全性重視の傾向が強まり、現在は、既存事業はもちろん、新事業においても追い風となっているという。
「これまで建築物は、所有者のステイタス、ブランドが優先されていましたが、今は安全・安心が求められる時代。我々の事業は今後ますます求められると確信しています」
目指すは、同社の事業が建設評価のスタンダードとなり、アクアという名が建築物の安全性を証明するブランドになること。そのために今回の新事業に加え、次の事業も用意しているという。今後もアクアの動向から目が離せない。