環境
2010年4月20日号
わが社の環境戦略
わが社の環境戦略(10)

恩賜上野動物園 Part 2

 恩賜上野動物園の環境保全に対する取り組みとして、第25号(平成22年1月20日号)で観客通路の壁面緑化やアスファルト面をはがしてウッドチップ舗装や遮熱舗装に帰る実験について紹介した。今号では、域外保全や地球の気候変動への対応、日本の文化を伝える等、21世紀にふさわしい動物園としての活動を紹介しよう。

(取材/津久井 美智江)

孵化の技術や飼育のノウハウでも
野生動物の保護に貢献

 「環境保全という意味で昔からやっているのは、滅びそうな動物を助けることです。例えば、昭和28年、保護されたトキが上野動物園にやってきました。有志でトキの研究会をつくり、33年にクロトキというトキの仲間を手に入れて繁殖の研究を開始。初めてクロトキを繁殖できたのが44年ですから、11年かかっているわけですね。

 佐渡にトキが放たれて、野生に棲むようになりましたが、彼らが食べている人工飼料は、実は上野動物園で開発したものです。このように、動物園などが孵化の技術や飼育のノウハウなどで保護に貢献することを、生息地での域内保全に対して、域外保全活動といいます」と、上野動物園園長の小宮輝之さん。

 野生の生息環境を守ることはもちろんだが、野生では気候環境のほか天敵や人間の活動などが影響しており、生息数の減少のスピードについていけない場合がある。動物園で飼育しておけば、万が一の時も種を保存することができ、飼育を通して生態を詳しく知ることができるので、野性下での保護にも貢献できるというわけだ。

 「東京でいえば、小笠原諸島の固有種で森林に棲むアカガシラカラスバトが絶滅危惧種で、野生での個体数はわずか30羽程度といわれています。トキもコウノトリも中国にいたから、日本にいなくなっても戻せました。でもアカガシラカラスバトは小笠原にしかいませんから、絶滅してしまったら復元できない。東京の動物園の沽券に関わりますから一生懸命取り組んで、ここでは今、20数羽に増えました」

 ホッキョクグマのエリアの横で工事が行われていた。どんな新展示がお目見えするのだろう。

 「ホッキョクグマと北極に棲むスバールバルライチョウが一緒に見られる施設です。ライチョウの繁殖を始めたのは、一つにはニホンライチョウを救うためですが、北極の動物たちを見せたいということもあるんです。地球温暖化の象徴ともいえるのが国際的にはホッキョクグマ、日本ではライチョウでしょう。環境問題の啓発につながるのではないかと期待しています」

 21世紀にふさわしい動物園として「日本の文化を大事にし、伝えていく動物園」も新しいテーマとして掲げている。これは、古墳時代から明治維新までの約1500年にわたり、日本人の生活を支えてきた木曽馬や見島牛、土佐の尾長鶏など、実物の日本在来の家畜や家禽を保護・展示し、生ける文化財として光を当てることだという。「こども動物園」では、車で運んでいる餌運びを、在来の馬や牛にさせる取り組みも始まっている。

 「年間10リットル程度のガソリンの節約かもしれませんが、動物園という発信力のある施設なので広くアピールできると思っています」

 動物園が取り組んでいるさまざまな活動を知り、環境問題の幅広さと奥の深さを実感した。

 動物園は単に動物を展示しているだけではなかったのだ。