環境
2010年2月20日号
わが社の環境戦略
わが社の環境戦略(8)

恩賜上野動物園

 熱帯から北極までさまざまな地域の動物が棲む動物園。そこに暮らす動物にふさわしい環境を提供することはもちろんだが、来園者のための園の環境づくりも大切だろう。恩賜上野動物園が環境保全に果たす役割やその取り組みをうかがった。

(取材/津久井 美智江)

壁面緑化、ウッドチップ舗装、
遮熱舗装で園内を涼しく

 20数年ぶりに上野動物園を訪れた。かつてはコンクリートで覆われた動物園という印象が強かったが、今日は緑が格段に増えている。動物園事務所に小宮輝之園長を訪ねた。

 「動物園でいちばん入園者が少ないのはいつだと思います?」

 開口いちばん、こう聞かれた。

 「夏……、でしょうか」

 「その通り。とにかく暑いから、夏休みなのにあまり人気がないんです」

 屋外だからエアコンを設置するわけにもいかないだろう。考えられるのは緑を増やすこと。園内に緑が増えたのは温暖化対策でもあったのか。

 「緑の間を風が通れば、涼しくなります。電気エネルギーを使わず、CO2を出さず、むしろCO2を吸収するような植物を使って、緑のトンネルをつくったり、壁面緑化を促進して温度を下げる努力をしています。

 それから、アスファルトの地面が夏の暑さ、冬の寒さを増長する原因でもあります。今、実験的にウッドチップ舗装や遮熱舗装に変えています。ちなみに西園の『こども動物園』はすべて遮熱舗装に変えました。西園の約半分が遮熱舗装になりましたから、園全体としては4分の1が遮熱舗装ということになりますね。遮熱舗装だけではなくて、人間が踏みつけないところは、ウッドチップをまいたり、土に戻したいと思っています」

 そういえは、動物園特有の臭いもあまり気にならなかった。これも緑化やウッドチップのおかげなのだろうか。

 「それもありますが、強化ガラスが使えるようになったことが大きいと思います。でも、臭いを消そうとは考えていません。臭いを消すと動物が精神的に不安定になりますからね、臭いは大事なんです。ゴリラなんていい臭いを出しますよ。

 強化ガラスの良い点は、動物をより間近に観察できるようになったことです。鉄格子の檻だと、1メートルくらい手前に柵がないと危ないでしょう。もっと昔の堀の時代は、ライオンは10メートルも先でした。強化ガラスのおかげで、ライオンがガラス1枚隔てて見られるようになったんです」

 環境という意味では、動物の自然の生態を見せるのも動物園の大事な仕事だろう。

 「世界で初めて、熊が冬眠できる施設を3年前につくりました。実は今、一頭が妊娠しているんです。熊は冬眠中に子どもを生みますから、運がよければモニターで出産シーンが見られるかもしれませんよ」

 次回は、「文化の動物園」「環境の動物園」としての取り組みをさらに掘り下げて紹介する。